就活の企業選びを、「人的資本経営」観点から考えてみた
就活生の企業選び、相性を「人的資本経営」で見極め
従来の就活生が企業選びの基準におくのは「業界・会社の将来性」「従業員の満足度」「福利厚生」「WLB」に着目して活動している。しかし入社から3年、退職は3割を超える。理由としては「人間関係」「正当な評価が得られない」「パワハラ」等で、この中に就活時の選択項目はなく人間模様を中心とした理由が占める。最近では数ヶ月で最初の会社を見限って退職する若者も増えているらしい。
数年前から人的資本型の重要性が指摘され、大手企業を中心に情報開示に力をいれるケースが増えている。日米の人に対する考えたは対照的で、「人」をコストとして見る日本企業と「人」は資産という捉え方の欧米企業。この30年間の時価総額の世界企業ランクを見れば上位にトヨタ1社のみということが世界の中の日本企業の現状を表している。
「人的資本経営」一見難しい言葉だが、この人的資本経営に対する会社の考え方をひもとけば、学生それぞれにとっての「良い会社」が見つかるヒントとなる。そのためにどのように情報収集すればいいか。
日本は22年に人的資本経営の指針策定
先行する欧米企業においては人的資本経営に関するの開示は当たり前となっている。日本国内では政府が2022年に人的資本経営の指針を策定した。まだ積極的に開示する企業は少数。その中でも開示に積極的な企業の中身に注目したい。少子化に伴う働き手の減少に加え、リモートワークの普及などで働き方が変化するなかで、企業には具体的な対応が求められている。
実際に上場企業など約4000社は企業の概要や財務状況をまとめる有価証券報告書(有報)に、女性管理職比率や男性の育児休暇取得率などの情報開示が義務化された。基本的には企業に投資する株主に向けた意味合いが強いが、これから会社の一員となる就活生にとっても、開示情報を知っておくことは大切だ。
複数の視点で読み解いていく
とはいえこの手の資料は圧倒的に情報が多く読んでも難解なことは確か。そんなときはいくつかの視点から読み解く。例えば有効な方法としては「働きがい」と「働きやすさ」の視点に分けて資料を読み解いてみることも手だ。
「働きがい」はあればあるほど仕事のモチベーションが高まっていく。例えば昇進条件や仕事で身につく知識やスキル、キャリアプランや人材育成にどれだけ力を入れているかといった観点で調べてみる。「働きやすさ」では給与や福利厚生、MLB、残業の有無、上司や同僚との人間関係といった項目が満たされないと不満につながる。企業の開示情報についてこの分類と自分の中での優先度を整理していくと、客観的に相性を測りやすくなりそうだ。
積極企業の動き
三井化学は公式ホームページのサステナビリティのページで、人材マネジメントの考え方について方針を公開。会社の持続的な成長と従業員個人の幸福や自己実現に対する目標を図解を用いてわかりやすく説明する。
人材の多様化については女性管理職(課長級以上)や障害者雇用などの目標比率と実績を開示している。例えば21年度は技術系総合職の女性採用比率が18%と目標の2割には届かなかった。人事部の櫨山義裕採用チームリーダーは「組織の実態を正しく知ってもらうことがミスマッチを防ぐためには重要だ」と積極的な開示の狙いを話す。
その他にも職場環境のページではテレワークの実施頻度や社員の超過勤務時間の平均値をグラフで示し、育休やフレックスタイムなどの各種制度も一覧表にまとめた。対面でもOB・OG訪問や女性限定の座談会などを開く。櫨山氏は「数字だけでは得られない情報も数多くあるので、自分の感覚で確かめる機会も作ってもらえれば」と助言する。
丸井グループはホームページの投資家情報の欄に22年9月に人的資本経営の資料を掲載した。企業文化の変革として実際の様子を写真で説明しながら8つの施策を紹介する。中でも社員にプロジェクトや学びの機会への積極的な立候補や発言を促す「手挙げの文化」については就活生から「何をしたか」「何を学んだか」など具体的な事例を聞きたいとの質問が殺到する。
これまでプログラミング教育の一環で約150人の社員が東京大学メタバース工学部に短期留学するなど、05年に策定した手挙げ文化は徐々に浸透してきている。人事部採用課の福谷真弓課長は「社員が就活生向け座談会に出て体験談などを話すことがひとつのアピールポイントになっている」と手応えを口にする。
もっとも就活生が企業選びでどういったことを知りたいのか発信すべき情報の取捨選択は「まだまだ試行錯誤中」だ。人的資本以外にも気候変動対策や生物多様性など開示すべきテーマも増えるなか、会社が伝えたい情報と学生が知りたい情報のミスマッチを減らすためには継続的なコミュニケーションも重要になる。
開示情報をもとにもう一歩踏み込む
就活生としては会社の開示情報を読んで納得するだけでなく、それをもとにもう一歩踏み込んだ調べたり面接では質問をしたり、実際の社員に話を聞いたりする姿勢が相性を判断する上では重要になりそうだ。実はこのような調べかたをしている就活生はまだ多くない。従来型の選択で活動をしているのが現状だ。
その中でこのような観点で調べていけば、就活でも一味違う企業との出会いを期待できるかもしれない。